2009年08月16日

断層撮影

 自慢になるような話もためになるような話もひとつだってなく、とにかく恥ずかしい恥ずかしい三年間が、けっきょく自分の今の芯みたいなものになってるんだから、困ったものなんです。

 高校一年生に上がる直前に、団地の狭い風呂に、何故なんだかオヤジと一緒に入っていた。
「お父さん、あのさ……人の性格って、いつ決まるんだろう」
「……んー。高校生くらい、かな」
(そうか、高校生か!)
 ちなみに、僕の両親は、高校生時代に知り合って付き合って(どうやらその間に僕が発生して!)結婚した(ありがたいことだ! パパ、ママ! 俺が、いまここにいてあることを!)。

*つまらない追伸!
 僕が「発生」したのは、両親が十代の時ってことではない。
 ここんとこ、ちゃんと書いておかないと、父も当惑する!(当惑する歳でもないだろうけど!)

 胸膨らませて入学すると、ワルい奴やヘンな奴ばっかりだった。
《ライオンパイ》という三年生がいた。
 これは「ライ・オンパイ」と発音して欲しい。
 頭が、ライオンのたてがみのような茶色のアフロで、ライオン先輩――転じて、ライオンパイ。
 市内いや道内でも有数の進学校であった、我が札幌南高等学校にも、そういう人がいたんである。
 同級にも、カツイやらナオシやらミウやらアオタやら、悪いモノはいっぱいいたが、まず僕らはライオンパイに呼ばれ、上下のルールというのを説かれた。
 幸い、暴力は無かった。

 で、ライオンパイの一味に《タバコンパイ》というのがいた。
 これは「たばこ・んぱい」と発音して欲しい。
 僕らはちょっとしたお洒落モノを自負していたので、小遣いでもあると思われていたのだろうか。
 タバコンパイは、すーっと寄ってきては僕らの首に腕を回し、
「タバコ、くれ」と言うのだ。「なけりゃ、小銭でいいぞ」

 あの素敵な進学校!
 女の子達はみるみるうちに綺麗になってゆき、運動部に入った男達は、その肌の色を艶々に焼いていく、そんな一学期!
 僕らの周囲には、ライオンパイとタバコンパイだ。

 おお!(フランス文学風に、詠嘆してみてね!)

 僕らの学生アルバムを身近に持っていますか?
 なぜか、坊主頭のボーイズがいるでしょう。
 オーキンとかテシオとか。
 あれは、タバコンパイの呪いだ。

 学校と「風月」の間にあったゲーセンで狩られ、あるいは屋上から一段下りたあの東側の屋根で、狩られた。
 後者の場合は、素敵な話があるんだ。
「あなた?」と電話をしたのは、沖野先生の奥様。「今、二階の屋根の上で、煙を上げてる子たちがいるみたいよ」
 マッチョな体育の沖野先生のご自宅は、学校を一望できる場所にあった(同窓生には、説明無用だけどね)。
 沖野先生は、現場へ急行した。
 そこで紫煙を上げていたのはタモキンら一味だった。
 先生はおっしゃったと聞く。
「俺が発見したんなら許さないけどな。でも、これは一種の密告だと思う。だので、俺はおまえらを見逃す」
 ほんとかな……でも、そういう伝説が実在する。

 その頃、僕はナオシとつるんでいることが多かった。
 南十九条大橋の下に、哲学者めいたホームレスのおじさんがいて、僕らは昼休みと、そこから連続する午後のひとときを、そこで過ごしたもんだった。
 ナオシはずいぶん気前よく、おじさんに煙草をくれてやった。
 もっともナオシは現実的なやつで、帰り道には、
「さっき、ジジイに四本やったから、高木は二本返せ」と言うんだ。
 不平はなかった。

 ホームレスのおじさんは、自称詩人だったが、じっさいのところ、文学の知識がすごくあった。
「ヘッセを読むならね……『みずうみ』がいいよ」だとか「トーマス・マンの『魔の山』は、今しか読めないんだからね」などと、今考えてもまるで間違ってない、素敵な文学論を語ってくれたもんだ。

(今にして思うとだけど、おじさん、ドイツ文学に偏りすぎではないか?
 ゲーテをギョエテと呼び、
『そう呼ぶと、女の子に、モテるよ』とか言っていた。
 ――説明するのも無粋ですが、そういうことは、あり得ませんでした!!!――
 ってことは?
 僕が学園の中や外で、女の子に向かって、
「ギョエテのヴエルテルの悩みはね……」とか、言ってみたということでしょうか?!
 非常に気まずい!!!)

 ところで、これももはや時効どころではない過去のことになるから書くけど、グラウンドの端(旧正門)のそばにあったテニス部小屋は、煙草を吸うには最高の場所だった。
 隠れ家だからってわけじゃない。
 その木造の小さな建物には、材木の隙間や節穴がいくつかあって、扉を閉めると真っ暗なはずの室内に、何本ものレーザービームが差し込むのだ。
 ビームはその時間によって、白かったり赤みがかっていたり、その角度も違うのだが、晴れている限り、ばっちりと部屋の中に射し込んでいた。
 さてそこで、一服点ける。
 僕らはもっぱらセブンスター派だったが、これって煙がとても濃い。
 小屋に射し込む、平らだったり細い細い円筒状だったりする明かりの中に、煙草の煙が渦を巻く。
 モヤの断層撮影だ。
 ナオシが、
「あのジジイに、見せてやりたいな」と言い出した。
「あのじいさんなら、これが判るだろうな」と僕は言った。
 僕らはテニス部小屋を出て、じいさんの姿を求めて南十九条橋の下へ行った。
 オチを付けたいわけじゃないんだが、じいさんはいなかった。
 そして、その後二度と、そこに戻ってくることはなかった。
 僕らはそれから何度も、小屋に射し込む光と煙のスペクタクルにうっとりしたもんだった。
「ジジイ……損したよな」と、いつもナオシは言っていた。
「どこ行ったんだろうな」と、僕は言った。
「死んだんじゃねえ?」とナオシは言い「それにしても綺麗だよね」と、煙の断層撮影に目を細めた(細めていたと思う――ほんとは暗くて、よく見えなかった)。

このブログ風読み物はフィクションです。
実在の人物・団体・商品・店名などとは関係なく、
ストーリーも全て架空のものです。

posted by TAKAGISM at 17:29| Comment(4) | 雑感
この記事へのコメント
いいね、この文章。数回読み返しちゃったよ。
スコッチをスカッチと言っていた知り合いのおじさんを思い出しました。
Posted by yukarus at 2009年08月17日 02:00
yukarus?
カナダ?
素敵なデザインのブログの主は!
も・し・や!!
あなたか!!!

*違う可能性3%くらい(その場合は、失礼しました)
Posted by TAKAGI at 2009年08月17日 07:26
朝、早起きだね。
いや、素敵でもなんでもないし、「も・し・や」なんてナカグロ入りでもったいぶられる程でもない、中学の同級生のわたしです。
こっそり読んでるよ。(って、もうこっそりでもないけど。)
Posted by yukarus at 2009年08月17日 08:14
早起きって……そうだね。
けど、そっちは夜じゃないか。
あ、そっか、ジャパンとの時差くらいはお見通しか。

朝からバカみたいに張り切ってる太陽に炙られながら、ベランダでコーラを飲みながら煙草を吸ってる。

君の暮らしはつまり、これの180度逆だ!
ロバさんはイケメンで、犬は賢こそうだ。
Posted by TAKAGI at 2009年08月17日 08:34
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