2010年10月24日

レイキュウの話【002】

 俺は《レイキュウ》について、素朴な知識はあったので、

「あとで教えてやるよ」と愛子に言った。

「あとで? なんであとでなの? そんなやばいものなの?」

 愛子は周囲を見回したが、井上さんもパンチョも衆民も、どことなく伏し目がち。

 焼肉をワリカンにし、ガムをもらって店を出た。

 衆民が、いつものように、本気とも社交辞令ともつかない口調で、

「もういっけん、飲みにいく?」と言うが、なんとなく誰も乗らない。

 渋谷の大交差点で別れた。俺は井下さんといっしょだ。

「あれだね……林衆民さんは、あながち冗談を言ってないね」

「え?」

「わたしも聞いたことあるのよ。台湾のね、山の方に、レイキュウがあるって話はね」

「それですか」

「あれは、あるね。そりゃ、台湾に行けば、あるわな」と、井下さんは独り言を言っているのだが、渋谷駅の真ん前の雑踏でのことだから、俺に《聞かせる》ための独り言も、大きい声になる。

 何口って言うんだろう。ガードのそばの小さな改札のあたりが、死ぬほどドブ臭く、そのあたりで働く人が気の毒になる。

「いずれにせよ、誰も彼も、長くはないってことで」と井下さん。

「辞めるんですか?」

「いやあ、わたしは、自分からは辞めないよ。あんたも辞めちゃいかんよ」

 ここで、俺のケータイが鳴った。愛子だ。

 井下さんは、猫背を丸め、右手を高く上げて、湘南ライナーのホームへ向かった。

「どこですか〜?」と愛子。

「JR渋谷だけど。愛子はどこへ消えたんだ?」

「あたしもまだハチ公のあたりなんですけど〜。ほれ、さっきの話が気になって」

「何が?」と、とぼけてみた。

「や〜だ〜。てか、サンチョさんもリンさんも、帰っちゃいましたよ?」

「そっか」

「やめてくださいよ〜、も〜」

「何を?」

「教えてやるって言ったじゃないですか〜。レイキュウ。何なんですか? あたし、マジ聞いてますから」

 とりあえず、山手線内回りのホームで落ち合うことにした。

posted by TAKAGISM at 08:02| Comment(0) | TrackBack(0) | レイキュウ
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